概ね期待通りの前日譚

映画感想「マッドマックス: フュリオサ」

2015年の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」で主人公マックスと肩を並べたメインキャラ…というか、実質影の主人公だったフュリオサの過去を描く単独スピンオフ映画。物語は彼女の幼少期から始まり、彼女がいかにして荒野の圧政者イモータン・ジョーの下で戦う女戦士になったのかが描かれる。「怒りのデスロード」では、身長177cmのシャーリーズ・セロンが屈強でタフなフュリオサを熱演。今作で若きフュリオサを演じるのはアニャ・テイラー=ジョイ。

映像、アクション、音楽は期待通り

これまでマッドマックスシリーズは1979年から計4本作られているが、「マッドマックス: フュリオサ」に関して言えば、とりあえず前作の「怒りのデス・ロード」だけ観ておけば問題ない。そして「怒りのデス・ロード」のアクションや音楽を期待している観客をちゃんと満足させてくれる内容となっている。「よくこんなん思いつくな!」という奇抜なアイディアのヴィークルや武具の数々。前作では名前だけ登場したイモータン・ジョーの第二、第三の拠点、ガスタウンや弾薬畑も映像化され、シリーズの世界観も広がりを見せた。

キャスティングが完璧

今作では少女時代のフュリオサをアリーラ・ブラウン、若年期のフュリオサをアニャが演じているが、どちらも完璧だった。両者とも血縁者かと思うぐらい顔立ちが似ている。視覚的に「この少女がアニャに成長して、アニャがシャーリーズに成長する」という説得力があった。

あと今作では前作のラスボスであるイモータン・ジョーが登場するが、前作でジョーを演じたヒュー・キース・バーンは2020年に他界しており、本作ではラッキー・ヒュームという俳優がジョーを演じている。こちらも正直前作とは別人が演じているとは思えないぐらい違和感がなくハマっていた。(ジョー自体がマスクやメイクで顔がほとんど隠れているキャラクターではあるが、あの目力というか眼光が本当に前作そのまんまだった)

個人的には期待通りで概ね満足の映画だった。が、個人的に少々気になるところもあった。

展開が結構飛び飛び

前作は「荒野を突っ切ってまた戻ってくる」というシンプルな筋書きの上に畳み掛けるようなアクションを織り交ぜながら一気に様々な人間模様を描いていたわけだけど、今作では約15年に及ぶフュリオサのそれまでの人生という結構長い期間の出来事が描かれる。なので仕方がないと言えば仕方がないのだけれど、話の展開が結構飛び飛びに感じた。

個人的に気になったのは、少女時代のフュリオサがシタデルで生活し始めてからの顛末。フュリオサはあの世界では珍しい健康体の少女ということで、将来イモータン・ジョーの子を産むための妻候補としてシタデルに招かれたわけだが、ジョーの妻たちが辿る運命を目の当たりにしたこと、そしてジョーの息子であるリクタスにグルーミングされかかったことを機に、自ら頭を丸め、ジョーの妻たちの住居から脱走。しかし子供が単身シタデルから出れるはずもなく、結局はシタデルの砦の中で喋れない男の子になりすまし、メカニックとして働きながら成長していく…という流れ。

まず、フュリオサが自分の元から脱走したことについてイモータン・ジョーがどう反応したかが一切描かれないのが気になった。あの世界では健康体の少女は相当貴重な存在のはずで、イモータン・ジョーにとってフュリオサは貴重な"財産"であるはず。それが脱走して行方不明になるのはかなりの大事だし見つけ出すまで徹底的に探そうとするはずだと思うのだが、その辺については映画では一切触れられていない。そのフュリオサも誰にも正体を気づかれないまま男になりすまして同じ砦のメカニックとして生活していたという…しかも時代が飛んで警備隊長のパートナーとなってからは普通に周囲の人たちと喋ってるし女であるということも認知されているっぽい。一体どういうことなのか…このへんはしれっと時間軸を飛ばさずにもっとちゃんと何かしらの説明が欲しかった。

無理やりこじ付けるとしたら、"喋れない男の子のメカニック"はある日砦から行方不明になり、"警備隊長のパートナーの女"はその日警備隊長が外部からスカウトしてきた別人…という設定で通したのかもしれない。でもねぇ…どうも釈然としない。前述の通り、健康体の女性というのはあの世界では相当珍しいはずだし、消えた妻候補の少女と警備隊長の右腕の女が同一人物ではないのかと疑う人物がひとりもいないというのが、なんか不自然に感じる。

フュリオサとイモータン・ジョーの因縁が薄まった感

今作でフュリオサに倒されるヴィランはイモータン・ジョーではなく(当たり前だが)、フュリオサの家族と人生を奪った男ディメンタス。このディメンタスが最終的にフュリオサに復讐されることで、今作の物語は決着するんだけど、そこを結末にしたせいで相対的にフュリオサとイモータン・ジョーの因縁が薄まったような感じを受けた。もちろんイモータン・ジョーは水源や食料を独占し武力で民を支配し女性をモノ扱いする極悪非道の独裁者ではあるんだけど、イモータン・ジョーのそういう非道ぶりは今作ではあまり描かれない。むしろ今作では行き当たりばったりで人望もなくいまいち部下達をまとめきれないディメンタスに対し、冷静に状況を見極め部下を束ねるイモータン・ジョーのリーダーとしての有能さが際立っている。終盤ではシタデルを乗っ取ろうとするディメンタスの仕掛けた罠に気付き、あえてそれに騙されたふりをして最終的に自陣に有意な状況に持ち込む作戦を立てるという策士ぶりを見せる。

そういう描き方がなされているので、「ディメンタスと違ってイモータン・ジョーは交渉でなんとか譲歩を引き出せるんじゃない?」感が生まれてしまったのが個人的にはなんかな…という感じ。大体ディメンタスの陽動作戦を即座に見抜いたイモータン・ジョーに対して、まだ砦から見える位置で進路を変えて逃げるって作戦をとった「デス・ロード」のフュリオサがなんだか間抜けに見えてしまう。(まあ一応逃げ切る算段はつけていたし、イモータン・ジョーに対しては小賢しい策を弄するよりも全力で正面突破する方が良いというフュリオサなりの判断だったのかもしれない)

まとめ

一本道な筋書きを愚直なまでに全力で突っ切った前作に比べると、今作は世界観を広げた分細かい粗が目立ったなという感じ。それでも期待通りのものが見られたしとても楽しめた作品。監督のジョージ・ミラーは今後もシリーズを広げていく心算らしいので、この調子でどんどん作って欲しい

映画
avater

mute

好きな作品や想ったことなどを綴ります

©2024 INTERLINKED All rights reserved.